2009/03/30 17:22
木星の居住ドームから木星の大気のなかに派遣された者は過去4組6人にのぼるが、
誰ひとりとして帰ってこなかった。木星上で防御服なしに生活できるように、6人とも
完璧な体質転位をほどこされ、万全の装備をもちながら、そのまま消えてしまったのだ。
派遣地点近くの徹底的な捜査もなんの成果もなかった。木星表面派遣プロジェクトの隊長、
ファウラーは、愛犬タウザーをつれ、5組目の派遣に志願した。部下たちの消えた原因を
なんとしても、自分の手で解明したかったのだ。
体質転位をし、ドームを出て木星に降り立ってみると、心地よい芳香が溢れ、幻想的な音楽が
身を包み、色とりどりの色彩に我を忘れるほどだった。
タウザー、遠い地球からつきそってきた友人。ファウラーは愛しいタウザーに思わず話しかけた。
なんと、高次のチャンネルを通して会話までも可能だった。
地球人の鈍い緩慢な頭脳とは違い、脳細胞がフル活動し、知への欲求がふつふつと燃えたぎった。
ドームのエア・ロックが開いて、タウザーがでてきた。そのとき、ふいに彼はタウザーの存在を意識した。
タウザー。地球から、彼に従い、幾つもの惑星を経めぐって来たその毛深い動物の、燃え立つような、
熱烈な友情を、彼は感覚的に感じたのだった。
彼はタウザーに思わず話しかけた、言葉ではなく高められた人間と犬との高次のチャンネルをとおして。

「おまえ、口をきいてるじゃないか!」
「もちろんさ。オレはいつでもあんたに話しかけてたんだよ。でもあまりわかってもらえなかった」
「それはすまなかった」
「まあ、いいさ。さあ、行こう」
「どこへ?」
「このすばらしい世界を見るのさ」
「でもみんなが待ってる。帰らないわけには・・」
「おれは帰らない。帰らないぞ」とタウザーが言った。
「おれもだ」ファウラーが答えた。
「帰ったら、おれはまた犬にされてしまう」
「そしておれは、人間にされてしまう」

 「都市」~『逃亡者』クリフォード・シマック 林 克巳 ハヤカワ文庫より
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