2009/07/08 07:20
ボクは、悪夢のような、あの日のことを忘れることができない。
あれは2年前の、そうそう桜の花が散り始めた春の頃だった。
親戚に勧められ、堅苦しい儀礼ぬきの見合いにでかけた。
こちらはボクひとり、相手は本人と介添えのふたりというものだった。
約束のホテルの地下のレストランに着くと、すでにひとりの女性が席にすわっていた。
女性は「介添えです。妹はまだ着かないのです。申しわけありません」と挨拶した。
姉は大柄で器量は悪く(悪いというのもかなり控えめな表現なのだが)、
着物姿も板につかず、ボクは心のなかで、
「きょうは、来るんじゃなかった。この女性の妹じゃどうしようもないな」と思った。
気がすすまないが、あきらめて、妹が来るまで姉と話をすることにした。
「ご姉妹はお二人だけなんですか?」
「ええ、そうです」
「あなたは、ご趣味は? SFやなんかは?」
「初対面なのに随分と大胆な質問ですこと。ムチやローソク・・・」
「それはSMでしょう。ボクが言ってるのはSF小説ですよ」
「いいえ、あまり読まないです。わたしって、ほんとにだめなんですよ。きれいなばっかりで」
「・・・ああ、そうですか。音楽は聞きますか?」
「一応は聞きますが」
「クラシックは?」
「ええ、好きですよ」
「プッチーニの歌劇『トゥーランドット』なんかは?」
「松島の?」
「それは『エンヤードット』でしょう。困ったな。句作はどうですか?」
「わたし、北島三郎はあまり好きじゃないんです」
「北島? ああ、それは与作でしょうが。ボクが言ってるのは句作、俳句ですよ」
「なんだ俳句?それなら早くそう言ってください。最近詠んだ句は『くちなしのはな』です」
「おお、くちなしの花ですか。咲く花の匂うがごとく、みたいないい出だしですね。で、どんな句?」
「口なしの鼻もなければ のっぺらぼう」
「いいかげんにしてください」
「ごめんなさい。あなたの緊張を和らげようと思って。光一さんて、誰かに似てるわね」
「ええ、俳優の岩城滉一に似てるとよくいわれます」
「ええと・・・、すみません。どのへんが?」
「どのへんって・・・、失礼な。あ、妹さんがおみえになったようですね。
妹さん、すごい美人ですね。あなた方のどちらかは、ひょっとしてもらい子なんですか?」
「それは、どういう意味ですか?」
妹は小柄で、いままで見たこともないような美人で、ボクはすっかり一目惚れをしてしまった。
このふたりが実の姉妹とは信じられないくらいだった。
ボクは姉との不快な会話も忘れ、立ち上がって挨拶をした。
妹は整った顔に、はにかみを少し含んで言った。
「道路が混んでいて、すっかりお待たせしてしまいました。はじめまして。
姉とのお話、はずんでるようでよかった。姉は知的な会話が出来ない人は苦手なんですよ。
後はふたりでホテルの庭でも散歩して、話の続きをなさってください」
「?%$#☆*※♪♂????」
姉が最初にボクに挨拶をしたとき、姉は自分のことを、「介添え」じゃなく「川添」と言ったのだった。

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