2022/11/27 07:11
「小学校の話題の中心はいつもポケモンだった。僕は一人いつも下を向いていた。
ウチにはゲームボーイもスーファミもなかった」
@nekogal21さんの切ないツィート

「ファミコンは目が悪くなるから」。僕と弟がゲームをねだるたび、
母は困った顔をして、でも決して折れなかった。図鑑、世界名作全集、
蟻の観察セット。サンタさんは毎年、僕のリクエストを無視して高島屋の
包装に包まれた立派なプレゼントをくれた。
嬉しくないのに、喜んだふりをするのが辛かった。

ドラクエもFFもクロノトリガーも、テレビで友達のプレー画面を見てるだけで我慢できた。
でも、ポケモンは違った。ゲームボーイの画面は小さく、見ようとすると
「近いんだけど」と邪険に扱われた。通信対戦で盛り上がる友人達のそばで一人、
本棚の古いコロコロを読んでた。涙をこらえるのに必死だった。

お小遣いを貯めて、ポケモンの攻略本を買った。隅から隅までボロボロに
なるまで読み込んだ。
技マシンの番号と技名を全部覚えた。全ポケモンの進化パターンもそらんじた。
でも、そこには僕が動かせるピカチュウもミュウツーもいない。
むしろ虚しくなるだけだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

大人になった今だから分かる。健全な物に囲まれ、誘惑に負けることなく
健やかに育って欲しいという母の想いは世間では愛と呼ばれるものだ。
僕が社学とはいえ早稲田を出て、それなりの企業に勤めているのは
母の愛のおかげだ。でも、幼少期に満たされなかった想いは、渇きは、
今もまだ確かに残っている。

「うわ、バイオレットだ!やったー!パパ、ありがとう!」朝、リビングで
Amazonの箱を開けて大はしゃぎの息子。「誕生日でもクリスマスでもないのに。
まだSAPIXの宿題も終わってないのよ」としかめっ面の妻。
これは息子のためでなく、僕の傷を癒すための儀式なんだと言っても
理解して貰えないだろう。

「そういやα1のケンタ君、家にSwitchないんだよ。ママが厳しいんだって。
可哀想だよね」息子の何気ない一言に、動悸が早まる。
子供の世界の共通言語を持たず、母親の監視の下で偏差値を上げるため
デイリーサピックスを黙々と解く小学生男子。
顔も知らないケンタ君の日常を思うと、胸が締め付けられる。

深夜、家族が寝静まったタワマン低層階のリビングで1人、Switchの電源を入れる。
ニャオハがマスカーニャまで進化しても、チャンピオンロードでオモダカを倒しても、
驚きや喜びを共有できる友人はどこにもいない。プレミアムモルツを一口飲む。
僕が本当に欲しかったものは、もう二度と手に入らない。

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Oh Lord, give me patience, and GIVE IT TO ME NOW!

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